文藝春秋9月特別号で、芥川賞作品2作を読みました。
朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」
主人公は、結合双生児。体は共有していて、顔は1つだけど、左右が違う。意識は2つあるけど、脳を共有しているので、相手の意識はわかる。かなり結合している。知らない人が見たら、顔の変な人。杏は、「私」と語り、瞬は、「わたし」と語る。2人交互に語るので、それぞれの考えは、読者にはわかる。もちろん、双子の相方には脳を通じてわかっている。
アイデンティティーについて考えさせられました。自分では自己を確立していると思っていても、どこまで自分なのでしょう。
松永K三蔵「バリ山行」
バリ山行とは、バリエーションのある山登りのこと。つまり、正規の登山道を離れて山に登ること。それを毎週しているのは妻鹿さん。主人公の会社の先輩。妻鹿さんは、孤独に我が道を行くタイプの人。主人公波多さんは、サラリーマンで、会社の話も出てくる。周りを見ながら行動するタイプの人。二人の交友が中心にある。
妻鹿さんの人物像が魅力的だと思います。周りからは変な人と思われているけど、自分のやるべきことをきちんとやっている人かな。決まった道を登る登山と自分で開拓した道を登るバリ、人生についても考えさせられました。
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他のノミネート作品
3作品あります。
尾崎世界観「転の声」…ミュージシャン、ライブチケットの転売
坂崎かおる「海岸通り」…老人ホーム、そこで働くウガンダ人女性、家に帰ろうとする人々
向坂くじら「いなくなくならなくならないで」…女友達との同居、死者との交流
作品を読んでいないので、雑誌の芥川賞選評からキーワードをピックアップしてみました。どれも設定が面白そうだと思いました。
選考委員講評
文藝春秋読む中で、これが楽しみなんです。作品を読んだあと講評を読むと「そういう風に評価をしているんだ。」とわかり、さらにそれぞれの目のつけどころが違うので、おもしろいです。
「バリ山行」は、短編小説の王道で評価が高いですね。芥川賞は、小説家の登竜門なんだけど、つまり新人賞に近いものがあって、まだまだ今後に期待という荒削りな作品もあるんだけど、「バリ山行」は、完成されていました。もうベテランの小説家かな、と私も思いました。人物が生きています。
「サンショウウオの四十九日」は、挑戦的という意見が多かったです。設定にとても興味惹かれます。
他の作品を推していた選考委員もいます。「転の声」に危うい気味の悪さがある。稀有な魅力を持つ作品という評価です。
五者五様の異世界観と全てを評価されていた方もいました。それぞれの世界が違うので、選ぶのは難しかったのではないでしょうか。
受賞者インタビュー
これも好きです。受賞者がどんな方かわかって、面白いです。
朝比奈秋さんは、お医者さんなんですね。他の作品も、自身の経験や知識に基づいたものが多いようです。物語が湧いてくるから書かざるを得ないというのは、作家が天職だと思います。でも、社交性の維持のために医者も続けているというのは納得できました。
松永K三蔵さんは、建築関係の会社で働くサラリーマンで、一人で登山に行く。やはり経験が、小説に活かされているのかなと思いました。
松永さんが文学にのめり込んだきっかけは中学生の時に読んだドストエフスキーの「罪と罰」って、私と同じなので、とても親近感を覚えました。この作品は素晴らしいです!
松永さんもサラリーマンを辞めるつもりはないそうです。読者と同じ感覚を持っているのか自分の強みだそうです。
終わりに
年2回発表される芥川賞。そのたびに文藝春秋を買って、作品と選考委員講評と受賞者インタビューを読んでいます。小説家の登竜門の賞を取った作家が、これからどう進化していくかが楽しみです。