ソン・ウォンピョン「三十の反撃」(2022年本屋大賞翻訳小説部門受賞作)

書籍

2022年本屋大賞翻訳小説部門受賞作。2020年受賞作の「アーモンド」も読んでいたので、この作者に親しみがあり、読んでみました。

「アーモンド」

感情を感じる器官アーモンドが小さいため、感情がわからない少年ユンジュが主人公。彼は目の前で祖母が殺され、母も植物人間になったのに無表情でした。生まれつきの病気や障害は仕方ないのか…いや、環境や本人の力で変わるかも…と思って読んだ小説でした。

「三十の反撃」あらすじ

主人公のジヘは、半地下に住み、アカデミーのインターンとして働く30歳の女性。そこの職員の特権として、アカデミーの講座の1つを無料で受けられます。(実は受講料を差し引いた給料になっているだけですが…)今まで受けていなかったのですが、新しくインターンになったギュオクが「一番高い受講料の講座を受けよう」と言い、ウクレレ講座を受けることになります。そのメンバーのうち大人4人で飲み会をすることになります。そこでギュオクが、「世の中に反撃する行動を起こそう」と提案し、何をするのか分からないまま、彼女も参加することになります。

実際の行動はとても小さいもので(例えば落書きを消すとか…)、それでも少しの達成感は感じるものでした。

題名の変遷

「普通の人」→「一九八八年生まれ」→「三十の反撃」

と題名が変わっています。内容に一番合うのは「普通の人」かな、と思いますが、それではインパクトが弱く、私も読まなかったもしれないです。(どんな反撃だろう?)と気になって読み進めました。

やはり、題名大事ですね。まず手に取ってもらう必要があります。

前作の「アーモンド」も題名を見て手に取りました。

済州4・3平和文学賞

この作品は「済州4・3平和文学賞」を受賞しています。社会の構造的矛盾に立ち向かう若者たちの抵抗の姿が「済州4・3」に通じると評価され。第5回済州4・3平和文学賞を受賞しました。そこで「済州4・3」とは何かを調べてみました。

1948年、アメリカ軍政下の済州島で南北分断を決定的なものとする南朝鮮単独選挙に反発した住民たちが4月3日に蜂起し、これに対して韓国軍、アメリカ軍、警察などが弾圧、殺戮しました。村民の願いは、朝鮮分断阻止、朝鮮統一でした。村民の1/4〜1/3が亡くなったと言われています。

長年語られなかった歴史を真相究明しようとしたのが2000年で、政府は平和を呼びかける事業として2013年から文学賞を作りました。

済州島といえば「冬のソナタ」の舞台ともなった美しい観光名所。日本からも近い島です。そんな過去があったとは知りませんでした。第二次世界大戦のせいで、南北分断された朝鮮。それを阻止しようとした住民たち。なんだか申し訳ない気持ちになりました。

普通の人たちの反撃

主人公ジヘはじめ、登場人物たちはごく普通の人たち。疑問を感じながらも我慢して、何とか生きようともがいています。その中での小さな反撃。小さな一歩だけど、少しずつ前進していると思います。

おわりに

生きるって大変で、うまくいかないことの方が多くって、でも、自分がどうしたいか考えて、そしてくじけて…また、進み出して…

普通の人たちの背中をほんの少し押してくれる小説です。

「あなたが座っている椅子があなたに何らかの権威を与えてくれるかもしれませんが、忘れないでください。椅子は、椅子でしかありません。」

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